はじめに
PCTを歩いた際の費用や注意点、感じたことについてまとめました。
「海外トレイルを歩くハイカー = 凄い人」だと思われるかもしれませんが、私含め所詮は素人です。
登山歴1年目だろうが20年目だろうが、申し込んで時間とお金を用意すれば誰でも歩けます。
海外トレイルを歩いたハイカーとブログやSNS、イベントなどで交流する機会は昔より多いと思いますが、その言葉を鵜呑みにし過ぎず、そのハイカーの一意見として捉え、自分で判断・体感することが大事だと思います。
これから書く内容もそんなハイカーからの一意見です。
費用について
一時1ドル160円を超える円安、物価高の影響もあり渡航費含め約150万円、その間の家賃や国民年金、健康保険の支払い等もあり合計200万円以上は口座から消えていました。
良い経験ができたので金銭に関する後悔は全くありませんが、やはり一番印象に残り、ハイカーとして経験を積めたのはシエラ区間なので、ジョン・ミューア・トレイルを歩く方がコストパフォーマンスは高いと思ったのも事実です。
身体が資本。食費はケチるところではないので、安く済ませたい人は極力ホテルを利用しないことが一番の節約だと思います。
アメリカのホテルは2人分の料金となっていることが大半なので、1人で泊まると高くつきます。そのため、
・一緒に泊まってくれる相方を探す
・キャンプ場を利用する(町の中にも結構ある)
・トレイルエンジェル宅を利用する
・補給を済ませたら山へ戻る
と良いでしょう。
トレイルエンジェルに関する情報は、Facebookのコミュニティやガイドブックである「Yogi’s Book」から情報が得られます。(Yogi’s Bookは2023年ぐらいから再編中で現在も購入できません。)
私はFacebookもYogi’s Bookも利用しなかったので、無くても全く問題ありません。
あと地ビール天国ですので、私みたいな酒飲みは酒代が痛いと思います。でも幸せな気分になれます。
「スルーハイク」に対する私の考え
明確な定義は決まっていないようですが、一般的には以下の認識です。
スルーハイク :ワンシーズン(12か月内)での全区間踏破
セクションハイク:複数シーズンに跨っての踏破、もしくは特定セクションのみのハイク
「スルーハイク」という言葉に惹かれてPCTやその他の海外トレイルを歩く人も多いかと思います。
私もその一人で、PCTをスルーハイクしてやるぞ!と意気込んでいましたが、山火事の影響や危険な渡渉の迂回などで叶いませんでした。
道や橋の崩落、山火事などは毎年発生し、こういったトラブルはトレイルの距離が長ければ長い程、遭遇する確率が上がります。
そう考えると真の意味で「ワンシーズンで全区間踏破」をできた人間なんて数える程しかいないのでは?と思います。
迂回路などを通り、その区間を歩いたことと見なすなど、スルーハイクの定義は人それぞれ。
ルート通り歩くことに拘るのではなく、目の前の障害にどう立ち向かうのかが重要と考えます。
PCTを歩いた私の結論としては、「スルーハイク」なんて只の言葉。「セクションハイク」と区別するだけのもので、そこに優劣はない。
大切なのは旅として自分が楽しめるかどうかだ。
マイルールを決めておく
私のマイルールは「判断に迷ったら安全側を選択する」です。
例えば、次の補給予定地点までギリギリ食料は足りそうだけど…このまま進むか、一旦山を下りて補給しようか…と判断に迷った時は、山を下りる方を選択しました。
より安全な方を選択したことで食料に困ったり、怪我をしたりといったトラブルを経験せずに旅を終えることができました。
これから進む道の状態や山の起伏、積雪量など全てを把握して歩くことは困難です。
また、疲労や先を急ぐ気持ちで適切な判断ができないこともあるので、事前に「この時はこうする」というルールを定めていた方が精神的に楽です。
私はほぼ一人で歩いていましたが、出会ったハイカーと歩く場合、マイルールに反する意見が出てくるかもしれません。
その場合には、マイルールに反してでも相手の意見を取り入れるか、命を預けられる相手なのか、冷静に判断する必要があります。
補給箱について
事前に郵便局宛てに食料などを送っておく補給箱。
私は一度も利用せず、毎回補給の際には町に下りていました。
効率を重視するなら補給箱を利用した方が良いと思いますし、実際に利用者も多いです。
町で補給するにあたり、以下のブログが参考になります。
その他に私が歩いていて見つけた補給可能箇所としては、
・Santa Rosa Pit Stop(151.8miles)
・Odell Sportsman Center(1908.9miles)
私は効率より道中を楽しみたい派なので補給箱を利用しませんでしたが、他のハイカーが余った食料をくれたり、ハイカーボックスに入れてくれたおかげで、町まで下りる必要が無かった区間もあるので、補給箱の文化は今後も無くならないでほしいと勝手ながら思っています。
暑さ対策について
日傘、サングラス、帽子は必須装備だと思います。
暑さ対策で効果が高いのが、シャツや帽子を水に濡らすこと。
カリフォルニアでは日差しが強いので直ぐにシャツや帽子が乾いてしまいますが、日傘を併用することで効果時間を長くすることができます。
暑さは最悪命に関わりますので、人目など気にせずシャツを脱いで濡らすことをお勧めします。
水深の浅い沢では砂が付いたりするので、プラティパスをカットしたバケツに水を汲んでから濡らすと良いでしょう。
シエラについて
最も印象に残った区間であり、最もストレスを感じた区間、それがシエラ。
それまでの南カリフォルニアでは一日平均40km以上は歩けましたが、シエラでは25km前後まで落ちました。
とにかく雪と渡渉で思うように進めない。これがストレスの原因でした。
どこに雪があるのか、渡渉があるのかを把握できていないからストレスを感じるのだと考え、一旦町に下りて、FarOutのコメントから雪の状態を確認、後述のAndrew Skurka氏のブログから渡渉箇所を調べ、1週間分の行動計画を立てたことでストレスを解消できました。
シエラの玄関口であるケネディ・メドーズの手前ぐらいからスマホの電波は入りませんでした。
ケネディ・メドーズではWi-Fiが利用できますが、そこからマンモス・レイクぐらいまでの山中はほぼ電波が入らなかったです。
そのため、インターネットで情報を調べつつ綿密な計画を立てるにはケネディ・メドーズか途中で町に下りる必要があるので、シエラ区間に関してはPCTを歩き出す前からある程度事前に計画を立てておくと良いでしょう。
アイスアックスの所持率は全体の3割ぐらいの印象です。無くても歩けましたが、有った方が良かったと感じた場面は何度かありました。
Triple Crown Outfittersの店前に張られていた装備リストには、アイスアックスは必要装備として記載されています。
虫刺されなどの痒みには「Cortizone 10」がめちゃくちゃ効きました。
私の場合、薬は「Cortizone 10」と化膿止めの「NEOSPORIN」しか買いませんでした。
薬関係は以下のPDFが参考になります。
雪や渡渉の多いシエラは本当に危険です。無理そうならスキップして後から歩くという選択肢もあります。
その場合はローカルパーミットの取得が必要となるので注意してください。
詳細は以下リンク先を参照。
渡渉について
とにかく無理をしないこと。
2017年に日本人女性を含む2名が渡渉箇所で亡くなられたことを忘れないでください。
早朝は雪が締まって水の流れが緩やかになるので、リスクを下げることができます。
流れが速い川の手前には大抵テント場が用意されていますので、無理そうならそこで泊まって早朝を待つと良いでしょう。
水に濡れたくないと無理に岩をジャンプしたり、倒木の上を歩いたりするより、普通に渡渉した方が安全な場合もあります。
岩をジャンプする際にザックの重さを考慮できておらず足を滑らせたり、逆に考慮しすぎて着地でバランスを崩したこともありました。
また、濡れた丸太は非常に滑りやすいです。無理に立って渡らず、跨れる大きさなら跨って進むことをお勧めします。
流れが速くて渡れない場合は1キロ以上、上流へ歩いてから渡ることも数回ありました。
また、流れが速いところでは水の抵抗を減らすため、長ズボンより短パンで渡ることをお勧めします。
自分が渡った後にハイカーが来た場合、どこを歩いたのかを共有することが一般的です。
先を急がず、その人が渡り切れるまでは様子を見守りましょう。
ソロハイカーでも、こういった持ちつ持たれつの関係があることは忘れないように。
危険な渡渉箇所についてはAndrew Skurka氏のブログを参照。
各クリークの危険度が表となっており、「Creek hazards: The map」ではGPXをダウンロード可能です。
Export ⇒ FormatからGPXを選択し、ダウンロードしたものをGaiaGPSにインポートして利用しました。
迂回路も表示されるため、私はBear CreekやEvolution Creekは迂回路に従って回避しました。
FarOutの欠点は、水場も渡渉箇所も💧マークで表示されているので「どこが渡渉ポイントなのか一目で分からない」点。
GaiaGPSを併用することで、この点をカバーできます。
その他には、靴のインソールを交換する場合は、保水しにくいインソールを選択することをお勧めします。
私はFP Insolesのインソールを愛用していますが、とにかく保水しやすく全然乾かないので靴の交換時に処分しました。
これまで靴がずぶ濡れになるぐらい山で使用しなかったので、この欠点に気付けませんでした。
今購入するなら「ホシノ / B+LDm Long Distance mesh」を選択すると思います。
山火事について
山火事などによるトレイル閉鎖情報は以下から確認できます。
アプリ版もありますが、AndroidだとGoogleの国設定(リージョン)が日本だとダウンロードできませんので、ブラウザから確認する必要があります。
(国設定を変えると日本のアプリが使えなくなる可能性があるので変更はお勧めしません。)
迂回路を提示してくれる場合、提示してくれない場合がありますので、更新を待っていると待ちぼうけを食らいます。
そのため、山火事の情報を見たら「自分ならどう動くか」を考えてさっさと迂回すると良いでしょう。
山火事周辺では焦げ臭くて呼吸がしづらいので、ネックゲイターをマスク代わりに利用することがお勧めです。有ると無いのではかなり違います。
装備について
装備紹介にも書きましたが、私の感覚で40Lザックで歩いている人は全体の4割以下という印象で、想定していたより軽量化に力を入れていた人は少ないと感じました。
そして、軽量化そのものより、パッキングの方が重要に感じました。
ベアキャニスターの有無や食料の種類、消費量によってザック内の重量は日々変化していきます。
「重い荷物は背中側、かつ高い位置に配置する」という基本を意識して、その時の状況に応じて配置を変化させる必要があります。
雑に荷物を入れた時と上記を意識したパッキングでは重量の感じ方にかなりの差を感じました。
軽いギアはお金を積めば誰でも揃えられますが、パッキングは技術。
パッキングの経験を積むには良い機会なので試行錯誤してみると良いでしょう。
英語について
PCTを歩くだけなら英語力は不要です。
私は全然英語が話せませんが、インターネットや電子書籍で覚えた定型文を使って、初めての海外旅行で約4か月間の旅を終えることができました。
翻訳アプリは「DeepL」が一番自然な感じがするので愛用していました。
インターネットに接続しないと翻訳できませんが、一度翻訳すると履歴が残り、保存もできます。
これはオフラインでも確認できるので、よく使う文章は保存していくと便利です。
(ログインするとログイン前の履歴は消えるので注意! 初回利用時にログインしましょう。)
電子書籍はインターネットに接続できない場合や目的が明確な時に利用していました。
購入した電子書籍
ヒッチハイクした車で町まで送ってもらう時など、会話するも上手く伝えられずに間が持たなくなった時は、運転手が気を利かして音楽を流し始めますので大丈夫ですw 何度もありました。
2009年にPCTを歩かれた舟田さんの装備に電子辞書があったことを考えれば、今の時代に「英語力に自信がないから海外トレイルを歩けない」なんて恥ずかしくて言えません。
その他
・Googleカレンダーにアメリカの祝日設定を入れていた。
設定 ⇒ 祝日 ⇒ 地域限定の祝日 ⇒ アメリカ合衆国 で追加できます。
毎日歩いていると曜日感覚が無くなります。
休日・祝日の方が交通量が多くてヒッチハイクが楽になったり、バスが運休だったり、ホテルの料金が週末や祝日の前後に高くなったりと休みの日を意識しておくと何かと便利です。
・Coke-Onアプリはアメリカでも問題なく使える。
歩行距離でスタンプを貰え、15ポイントと貯めるとドリンク1本無料券が貰えるCoke-Onアプリ。
無料券の交換期限は90日なので帰国の時期から逆算して無料券を手に入れると良いでしょう。
・Googleマップでのバス路線検索にはご注意を。
町やトレイルに向かう際や迂回などでバスに乗る機会があると思います。
Googleマップは時間や経路も出て便利ですが、既に運行していない路線が出てきたり、乗り場が間違っていたことが何度かありました。
念のため、公式サイトや公式アプリ、別の交通系アプリでも確認することをお勧めします。
さいごに
2015年ぐらいに舟田さんの逍遥遊を発見して、ずっと心の中にあったPCTをやっと歩くことができ、非常に嬉しかった。
私のブログもそんな誰かの刺激になればと思って書いています。
当初はアメリカ3大トレイルを全て歩く「トリプルクラウン」を目指していましたが、既に体験したアメリカよりも他の国のハイキング文化を体験したいと感じたため、現状ATやCDTを歩く予定はありません。
また、歩くだけなら何千kmでも歩けると感じたので、今後はより過酷な海外のウルトラレースなども視野に入れて活動していこうと考えています。